旭川地方裁判所名寄支部 昭和39年(ワ)38号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕被告が本訴において相殺を主張する自働債権は、本訴被告が原告となり本訴原告を被告とする当庁昭和三八年(ワ)第二八号不当利得金等請求事件において本訴被告がその支払いを訴求していた不当利得返還債権と同一の債権であること、右事件については昭和四○年七月二七日原告請求棄却の判決言渡を受け、本訴被告において控訴申立をしたため現に控訴審に係属中であることはいずれも当事者間に争いがない。
そこで、このようにすでに係属中の別訴において訴訟物となつている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出することが許されるかについて考えてみるのに、民事訴訟法第二三一条は、すでに裁判所に係属する事件についてさらに訴を提起することを禁じており、その趣旨が審理の重複による無駄を避けるための訴訟経済上の要請と二個以上の判決において互いに矛盾した既判力ある判断がなされるのを防止することにあることはいうまでもないところであるが、相殺の抗弁が提出された自働債権の存在又は不存在の判断が相殺を以て対抗した額について既判力を有することとされている(民事訴訟法第一九九条第二項)点からみるときは、右の趣旨は同一債権について重複して訴が係属した場合であると、すでに訴訟の係属中にその訴訟物たる債権を自働債権として別訴において相殺の抗弁が提出された場合であるとで何らその理を異にするものではないと解せられる。もつとも、第一の訴訟において提出された相殺の抗弁における自働債権を訴訟物として別個に訴を提起した場合には、前者の訴訟において抗弁の判断に入るまでもなく請求が棄却されることもあるのであるから後者の訴を直ちに不適法として却下することには疑問があるが、本訴は、後に相殺の抗弁が提出された場合であるから(本件相殺の抗弁は、昭和三九年一二月三日の第一回口頭弁論期日になされたものであつて、前記不当利得金請求事件の訴訟係属後であることは本件記録上明らかである。)、民事訴訟法第二三一条を類推適用するのが相当であり、したがつて被告の相殺の抗弁はその余の判断をするまでもなく失当であつて排斥をまぬがれない。(吉井直昭)